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高松高等裁判所 平成8年(ラ)99号 決定

抗告人兼申立人 X1

抗告人 X2

相手方 Y1 外4名

被相続人 A 外1名

主文

一  原審判主文第一項を取り消す。

二  被相続人Aの遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録(一)3記載の不動産を相手方Y1及び同Y2の共有取得(持分各2分の1)とする。

2  同目録(二)の証券類等を相手方Y1及び同Y2の準共有取得(持分各2分の1)とする。

3  同目録(一)1及び2記載の各不動産を抗告人X1の取得とする。

4  同目録(三)記載の現金を抗告人Y1の取得とする。

5  相手方Y1及び同Y2は、抗告人X1に対し、それぞれ金96万9524円(合計193万9048円)を支払え。

6  相手方Y3、同Y4、同Y5及び抗告人X2は、いずれも遺産を取得しない。

三  抗告人らのその余の抗告を棄却する。

四  申立人には、寄与分はない。

五  手続費用中、鑑定人Bに支給した金103万円のうち各金49万円ずつは相手方Y1及びY2の、金5万円は抗告人X1の負担とし、原審及び当審におけるその余の手続費用及び当審における審判申立費用は各自の負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

抗告人らは、原審判を取り消し、本件を高松家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めるとともに、当審において、申立人X1の寄与分を定める審判を求め、その理由として、それぞれ別紙即時抗告の申立書及び「審判申立書」(各写し)記載のとおり主張した。

第二当裁判所の判断

一  本件抗告について

次のとおり訂正、付加するほか、原審判理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原審判4丁表5行目及び7行目の各「遺贈」をいずれも「相続させる旨の遺言を」と改め、同15行目から同丁裏2行目までを次のとおり改める。

「原審における鑑定の結果によれば、被相続人Aの遺産である別紙遺産目録(一)1及び2記載の各土地の平成3年7月1日当時の価額は、合計3008万8400円であることが認められる。ところで、遺産分割における遺産の評価は、遺産分割時を基準に定めなければならないと解され、本件においては、原審判のあった平成8年10月21日が遺産分割された時とされるところ、平成3年7月から平成8年10月までにかけては、とりわけ都市部での土地の価額が相当程度下落したことは公知の事実であるから、平成3年7月1日時点での右各土地の鑑定価額をもってそれより5年以上経過した平成8年10月時点での遺産の評価額とすることは相当でないというべきである。もっとも、抗告人らは、同時点での右各土地の価額がいかほどであるかについて、原審において鑑定を申し出たりするなどの立証を何ら行わず、他にこれを直接算定し得る的確な資料はないものの、当審において調査したところ、右各土地の路線価は、平成4年度には1平方メートル当たり11万3000円であったところ、平成8年度には平成4年度の約85パーセントである1平方メートル当たり9万8000円に下落していることが認められるから、右各土地の平成8年10月当時の価額は、前記合計3008万8400円の85パーセントに相当する2557万5140円とするのが相当である。そうすると、被相続人Aの遺産の総価額は、別紙計算書一記載のとおり、2億1026万9587円となる。」

2  同6丁裏5行目の「4」を「(4)」と改め、同15行目の次に改行して次のとおり加える。

「抗告人らは、右立替金債務の存否が遺産分割の前提事項であるとしても、被相続人CとD、Y1、Y2との間の高松高等裁判所昭和××年(ネ)第××号所有権確認、所有権移転登記手続請求控訴事件の判決理由中で右立替金債務の存在が認められているのであり、そうである以上、本件において消極財産として遺産分割の対象とすべきである旨主張するが、右判決は、右立替金債務の存在を確定したものということはできず、いまだその存否は相続人間で争いがあると認められるのであって、その存否は終局的には民事訴訟によって決するほかない事項であるというべきであるから、抗告人らの右主張は理由がない。」

3  原審判8丁表5行目の「6000万」を「600万」と改め、同丁裏2行目の「認められず、」の次に「また、後記二のとおり、抗告人X1の具体的相続人に加算すべき寄与分も認められないから、」を加え、同8行目の「1億739万1423円」を「1億0513万4793円」に、同9行目及び同14行目の各「3579万7141」をいずれも「3504万4931円」に、同12行目及び14行目の各「遺贈し」をいずれも「相続させ」に、同15行目の「8949万2852円」を「8761万2327円」にそれぞれ改める。

4  同9丁表3行目から12丁表10行目までを次のとおり改める。

「遺言者の財産全部を包括して特定の相続人に相続させる旨の遺言に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である(最高裁平成8年1月26日第二小法廷判決・民集50巻1号132頁参照)。したがって、本件において相手方Y3、同Y4及び同Y5が抗告人X1に対してした遺留分減殺請求により別紙物件目録記録の各物件について生じた同抗告人と同相手方らとの間の共有状態を解消するためには、遺産分割手続によるべきではなく、民事訴訟たる共有物分割の訴えによるべきであると解すべきである。」

5  同13丁表15行目及び同丁裏1行目を次のとおり改め、同2行目の「〈5〉」を「〈6〉」に改める。

「〈4〉同目録(三)の現金を抗告人X1の取得とする。

〈5〉相手方Y1及び同Y2は、抗告人X1に対し、代賞金としてそれぞれ金96万9524円(合計金193万9048円)を支払う。」

二  寄与分を定める申立てについて

次に、申立人(抗告人X1)が当審においてした寄与分を定める審判申立てについて判断するに、原審判理由第2の二2(1)のとおり、被相続人Aが形成し、蓄積した資産に対する同Cの貢献は非常に大きなものがあったといわなければならないものの、被相続人Aは、同Cの上記貢献に報いる趣旨で別紙遺産目録(一)1記載の宅地について同Cとの共有とし、同3記載の宅地の持分9分の1を同Cに贈与したものであり、かつ、右各生前贈与については、民法903条1項所定の「生計の資本として」されたものには当たらず、いわゆる持戻しをしないで同Cの具体的相続分の計算をしたことなどの事情にかんがみると、被相続人Aの遺産について同Cの具体的相続分に加算すべき寄与分はないものというべきである。

第三結論

よって、右判断と異なる原審判主文第一項を取り消して、被相続人Aの遺産を右判断のとおり分割することとし、抗告人らのその余の抗告は理由がないからこれを棄却することとし、なお、申立人(抗告人X1)が当審において申し立てた寄与分を定める審判申立てについては、申立人には寄与分はない旨定めることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 田中俊次 村上亮二)

別紙遺産目録〈省略〉

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